第12回 観光振興の基本的な考え方
本連載は「地方創生を実現するために、地方議会議員は具体的に何をすればよいのか?」、また「地方創生を実践するガイド」という2つの視点を持ちます。
第1期の地方創生を振り返り、第2期の地方創生を成功の軌道に乗せるためのヒントをもとに、読者の皆さんは本連載で示すヒントを深化・進化させていただき、議会での質問や提言に活用していただけると幸いです。
新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」とします)により、インバウンド(訪日外国人旅行)の機運がなくなりました。インバウンドに限らず、観光全体が停滞し、地域経済に大きな影響を受けています。
観光庁の発表は、2019年の旅行消費額を27・9兆円と推計しています。コロナの影響を受けた2020年には、旅行消費額は11・0兆円となりました。この数字の捉え方は立場により異なりますが、筆者は依然として観光には大きな経済効果があると認識しています※1。
読者から「インバウンド熱が冷めたため、観光振興は厳しい…」という声が聞こえてきそうです。図表1を確認してください。
2019年と2020年の「観光庁旅行・観光消費動向調査」を比較したものです。確かにインバウンドは4・1兆円のマイナスと落ち込んでいます。しかし、それ以上に日本人国内宿泊旅行者がマイナス9・4兆円となっています。観光振興は、日本人国内旅行者が主体であることが分かります。
地方創生の一つの目標は地域経済の活性化です。観光は地域経済を活性化する可能性があります。今回は、地方創生を実現するため、観光振興の基本的な考え方を取り上げます。読者に対する情報提供の意味があります。
1 観光振興は「ターゲティング」が重要
観光振興を進める上で、最低限把握しておくことは、「日帰り旅行者を狙う」のか、「宿泊旅行者に焦点を絞る」のか、です。この考えは観光振興では基本です。旅行者の形態として「日帰り」「宿泊」の2パターンを意識する必要があります。
図表2は旅行者のセグメント化です。セグメント化とは、顧客(旅行者)を小さな単位に分けることを意味します。
民間企業は、自社の商品やサービスをすべての顧客に対して、提供するわけではありません。顧客をセグメント化した上で、ターゲットを絞って、ピンポイントで商品やサービスを売り込むのです。図表2のように旅行者のターゲティングをより細かく設定します。まず「日帰り」と「宿泊」に分けます。次に「日帰り」は、「独身者」と「既婚者」に分類できます。さらに「独身者」は「男性」と「女性」とに分けて考えます(この範疇に入るかは検討の余地はありますが「LGBTQ」(Lesbian、Gay、Bisexual、Transgender、Quetioning の頭文字をとったもので、セクシャルマイノリティを指す言葉)も加えてよいと思います)。
また「既婚者」は、四つに分けることができます。第1 に「DINKs」です。これは「DoubleIncome No Kids」の略であり、「夫婦共働きで子どもがいない世帯」を意味します。第2 に「DEWKs」であり、「DoubleEmployed With Kids」の略です。つまり「夫婦共働きで子どもがいる世帯」です。第3 に「SINKs」という概念も存在します。これは「Single Income NoKids」の略であり、「夫婦のどちらか一人だけ働いていて子どもがいない世帯」です。そして第4 に「SEWKs」があります。これは「Single Employed WithKids」となり、「夫婦のどちらか一人だけ働いていて子どもがいる世帯」となります。
図表2を活用して、旅行者のすべてを対象とするのではなく、しっかりと絞り込むこと( メンイ・ターゲット)が大切です。
例えば、自分の自治体は「日帰り→ 既婚者→ DEWKs →60歳代後半→世帯年収300万円」の旅行者という感じです。そしてターゲットとした旅行者の志向する観光資源を提供する必要があります。
「日帰り」か「宿泊」か、が決定すれば、どの地域から旅行者を獲得するかという地域のターゲットも決まります。対象地域が明確になったら、それらの地域に広告※2を集中的に投入していくことになります(プロモーションを進めます)。
【脚註】
※1 詳細は次のホームページを参照してください。
観光庁旅行・観光消費動向調査(https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/shouhidoukou.html)
※2 広報ではなく広告です。広報とは「官公庁・企業・各種団体などが、施策や業務内容などを広く一般の人に知らせること」という意味があります。広告とは「民間企業が商品やサービスなどに関する情報を世間の多くの人に知らせ・興味を抱かせ・購入その他の行動を促すこと」と定義されます。すなわち広報は「伝える」ことに主眼があり、広告は「伝えたうえで、商品を買うなどの行動を起こさせる」ことに重きが置かれています。
詳細は地方議会人6月号で解説していきます。