第7回 「地域の活性化を目指す基本的な視点」
本連載は「地方創生を実現するために、地方議会議員は具体的に何をすればよいのか?」、また「地方創生を実践するガイド」という2つの視点を持ちます。
第1期の地方創生を振り返り、第2期の地方創生を成功の軌道に乗せるためのヒントをもとに、読者の皆さんは本連載で示すヒントを深化・進化させていただき、議会での質問や提言に活用していただけると幸いです。
本連載の意図は「地方創生を実現するために、地方議会議員は具体的に何をすればよいのだろうか」というテーマに対する私の考えを記しています。また「地方創生を実践するガイド」という意図も入っています。
前々回(連載・第5回)は、地域活性化に関して言われている通説の間違いを指摘しました(筆者の考えを述べました。その視点が「絶対正しい」と言うわけではありません。読者なりに考えていただけたら幸いです)。今回は地域の活性化を目指す視点を、事例を踏まえつつ紹介します。
地域資源に着目
すでに知っている読者も多いと思いますが、地域を活性化した事例を紹介します。境港市(鳥取県)の「水木しげるロード」は有名です。約800mの商店街の道筋には、鬼太郎をはじめ160体を超える妖怪たちのブロンズ像がならんでいます。今日では、多くの観光客でにぎわっています。
しかし、かつて境港市は地域経済が停滞し、新しい方向性を検討していました。その中で1980年代後半に商店街の活性化の一つとして「緑と文化のまちづくり」をテーマに掲げ、その名から「鬼太郎」や「妖怪」をキーワードとして、妖怪オブジェを商店街歩道に設置する「水木しげるロード」の構想がまとまりました。なお、漫画家水木しげる氏は境港市出身になります。
次に五所川原市(青森県)の事例を紹介します。同市は冬になると「地吹雪体験ツアー」が実施されています。同ツアーは上半身を覆う大型の肩掛け角巻きと、かんじきを身に着けて厳寒の雪原を歩く体験型の観光です。1980年代後半から開始されています。今では地吹雪ツアーはブランド化されています。(一部の人たちにとって)人気のある観光商品として定着しつつあります。
地吹雪体験ツアーから学ぶことは多々あります。その一つに、地域にとって「不要」な資源である「地吹雪」を観光資源に捉えたことです。地域にとって不要であっても、誰かにとっては観光の要素としてニーズやウォンツがあるかもしれません。そこで地吹雪の「見込み客」を探し出し、売り込んでいったことが成功のポイントです。また、地吹雪は地域にとって不要資源であるため、たとえ観光化に失敗しても、取り返しのつかない大きな被害にはならないでしょう。
同ツアーは30周年目を超えたあたりから、五所川原市だけではなく、青森県の今別町、鯵ケ沢町、平内町においても展開されつつあります。また、近年は外国人観光客に人気の観光であり、リピーターも多いと聞きます。
川崎市は、京浜工業地帯の中心的な位置にあり、油化学、東燃石油化学などの工場が立地しています。夜間の工業地帯の夜景は幻想的であると気が付きました。そこで2008年に川崎産業観光モニターツアーの一貫として「ドラマチック工場夜景ツアー」を試験的に行いました。その反響は大きく、2010年4月から民間会社の協力を得てバスツアーの定期運行を開始しています。2011年2月には、川崎市において全国初となる「第1回全国工場夜景サミット」が開催されました。今日では「日本五大工場夜景」も浸透しつつあります。日本五大工場夜景は、川崎市に加え、室蘭市(北海道)、四日市市(三重県)、周南市(山口県)、北九州市(福岡県)です。
川崎市の賑わいは、産業観光や工場夜景だけではありません。そのほか市内にある産業遺産や先端技術を体験できる観光を積極的に展開しています。これらの観光は「スタディー・ツーリズム」(StudyTourism)と称されます。スタディー・ツーリズムを直訳すると「教育旅行」となります。しかし、一般的な教育旅行とはニュアンスが異なります。本来、教育旅行とは、学校などで行われる旅行(例えば修学旅行など)を意味しています。川崎市の実施するスタディー・ツーリズムは、教育旅行よりも広い概念を持ちます。その意味は明確に定まっていませんが、「観光を通して学習活動を経験することで、知見を豊かにするツアー(催し物)」と定義できます。
最後に阿智村(長野県)の星空観賞ツアーを言及します。同ツアーは阿智村を全国的に有名にしました。阿智村の人口は約6500人という小規模の自治体です。観光客が「日本一の星空の村」を体験することを目的に、多い時には一晩で2000人以上も訪れる時もあるそうです。
境港市の水木しげるロード、五所川原市の地吹雪体験ツアー、川崎市の産業観光や工場夜景、阿智村の星空観賞ツアー、これらに共通することは何でしょうか。
この回答は多々あります。その中で私が強く指摘しておきたいのは、地域活性化の基本は「ないものねだりではなく、あるもの探し」という事実です。香川県のうどん県もそうですし、横須賀市(神奈川県)の横須賀海軍カレー(カレーの街よこすか)も該当します。そのほか上勝町(徳島県)の葉っぱビジネスや、宇都宮市(栃木県)の餃子を活用したまちづくりなど、既存の成功している地域活性化の共通点を抽出すると「ないものねだりではなく、あるもの探し」ということが多くあります。もちろん、成功している地域活性化のすべてがそうだとは言いませんが、おおよそに共通している事実です。
地域活性化を成功の軌道に乗せたいのならば、地域資源に注目する必要があるでしょう。私たちは「隣の芝生は青く見える」という格言があるように、他事例がよく見えてしまうことが多くあります。しかし、他事例を模倣しても、それは二番煎じです。いつまでも模倣した他事例を超えることはできません。
繰り返しますが、地域活性化の基本は「あるもの探し」です。地域に存在している「あるもの」に気が付くことが大事です。