議会基本条例をめぐる状況①
1 議会基本条例を定めないことのススメ
昨年は、2006(平成18)年に北海道栗山町が議会基本条例を定めて10年の年でした。この10年を振り返り今後の議会を考えるいろいろなイベントが行われ、出版物が刊行されました。そんな11年目の春に、「議会基本条例を議会に活かす・住民に活かす」の連載を始めようと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
著者は、衆議院法制局や衆議院事務局で勤務した経験があります。現在は著述業の傍ら、議会アドバイザーなどとしていくつかの議会に関わったり、研修などで議会に伺わせていただくことも多いのですが、「議会基本条例を制定している」ことと「改革を行っている」ことは同じでないという気がしています。
自治体議会改革フォーラムのウエブサイト上の「議会基本条例制定状況」によると、2015(平成27)年9月18日現在で、すでに701自治体で制定が確認されているそうです。さすがに制定の勢いは鈍っているとはいえ、その後、さらに数十の自治体議会で制定されているはずです。
自治体の数からいえば、40%以上が議会基本条例を持っている計算となります。そんな事情があるからでしょうか、ときどき、未制定の議会の議員から「議会基本条例は定めた方がいいですか?」と尋ねられます。「私、就職した方がいいですか?」、「私、貯金した方がいいですか?」などと他人に尋ねる人はいないはずです。自分の人生を切り開くに当たって、必要なら、就職するでしょうし、貯金だってするでしょう。こうしたことは目的ではなく、手段だからです。目的を実現する(人生を切り開く)ために必要なら、そうした手段をとるに過ぎません。
何がいいたいのかというと、議会基本条例を定めることは手段であり、目的ではないのです。まずは、そのことを理解しなければなりません。ですから、「議会基本条例は定めた方がいいですか?」と尋ねられたら、「どうして議会基本条例を定めた方がいいと考えたのですか」と逆に質問することにしています。議会基本条例を定めるのは、この質問に答えが出てからで十分です。
少し先に進んだ⁉議会ではこう質問されます。「やはり議会基本条例は定めた方がいいでしょうか?」と。「『やはり』とおっしゃるからには、気になる点があるのですね、どうして議会基本条例を定めた方がいいと考えたのですか」とお尋ねします。この場合には、「何かしら」のことを教えてくれます。「住民との関係を条例のなかでしっかり位置付けたくて…」とか「災害時の組織や議会の役割を書いておこうと思いまして…」などと。
そうしたことが議会基本条例を定めたことで実現に近づけるなら、議会基本条例制定が意味を持ちます。ただ、「やはり…」の場合にも、とんでもない正直ベースの返答が返ってくることがあります。「このあたりの市で議会基本条例を定めていないのはうちだけなのですよ」と。この場合には「周りの友人が結婚したからといって、あなたも結婚しますか」とか「隣の家の夕食がカレーライスだからとあなたの家の夕食もカレーライスにしますか?」と冗談交じりにお話しします。それでも、困り顔で「おっしゃりたいことは分かりますが、対住民との関係でもったいないのですよ」とどこまでも正直ベースの悩みを打ち明けられます。
しかし、議会基本条例を定めたことだけで住民が議会を見直すなんてことはあり得ません。たとえ、ほんのひと時、持ち直しても、議会が何も変わらないのなら、一旦収まった不信は倍になって戻ってくるはずです(そうした議会を見てきた)。
少し法律的な話をすると、条例で定めなければならない事項というものがあります。たとえば、「義務を課し、又は権利を制限する」(地方自治法14条1項)場合には、条例によらなければなりません。しかし、議会基本条例は議会に関することですから、直接、誰かの権利を制限したり、義務を課したリすることは普通考えられません。議会関係でいえば、「委員会の設置」(同法109条1項)には条例が必要です。
また、「議決事件の追加」(同法96条2項)、「通年の会期」(同法102条の2第1項)にも条例の制定が必要です。しかし、これらの条例は、「委員会条例」、「議決すべき事件に関する条例」、「会期等に関する条例」として定めれば何の問題もありません。何がいいたいのかというと、議会基本条例は法的には「任意条例」、つまり、定めても定めなくてもいい条例なのです。こうしたことを踏まえると、これから議会基本条例を定めようとするなら「条例を定めてどんな議会にしたいのか」まずはそれをハッキリさせることが必要です。
また、すでに議会基本条例を定めているのなら議会基本条例を定めて実現しようとしたことに迷いなくまい進することです。もし、「とりあえず、議会基本条例を定めた」というのであったら…、それでも議会基本条例を定めたことをきっかけに、議会を改革し、住民の信頼を高めたいものです。そのためには、議会基本条例の規定の趣旨を理解し、その規定の趣旨に従って議会をよりよくするための改革を行わなければなりません。
詳細は地方議会人5月号で解説していきます。