第2回 「第1期地方創生 ー結果と現象」
本連載は「地方創生を実現するために、地方議会議員は具体的に何をすればよいのか?」、また「地方創生を実践するガイド」という2つの視点を持ちます。第1期の地方創生を振り返り、第2期の地方創生を成功の軌道に乗せるためのヒントをもとに、読者の皆さんは本連載で示すヒントを深化・進化させていただき、議会での質問や提言に活用していただけると幸いです。
前回に続き今回も、過去の地方創生をマクロ的に捉えて検討します。本稿の流れは次のとおりです。
最初に、「第1期地方創生の結果」を簡単に確認します。次に、「地方創生が生み出したこと」を考えます。多くの現象を生み出しましたが、今回は一つに限定します。最後に、「地方創生に関する議会質問」等を確認します。
いずれも読者に対する情報提供であり、地方創生に関する政策を考察し立案するためのヒントの提供という意味もあります。
1.地方創生の結果
第1期地方創生の結果について、国は有識者会議を設置し、基本目標ごとに進捗状況の検証を実施しています※1。基本目標1の「地方にしごとをつくり、安心して働けるようにする」と、基本目標4「時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する」は、「目標達成に向けて進捗している」と評価しています※2。
一方で、基本目標2の「地方への新しいひとの流れをつくる」と、基本目標3の「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」は、「各施策の進捗の効果が現時点では十分に発現するまでに至っていない」と結論付けています(この「発現する」時期は訪れるのか疑問です…)。
図表1は、地方創生に関連する指標をいくつか集めました。名目国内総生産や完全失業率などは改善しています。一方で合計特殊出生率は悪化し、東京圏への過度の人口集中は留まっていません(むしろ地方創生がスタートしてから加速化しています)※3。大まかな傾向を述べると、少子化対策はほとんどうまくいっていません。一方で、高齢者対策や(地域)経済の活性化は、いい数字が見られます。読者はどのように感じられたでしょうか(最近は、新型コロナウイルス感染症の影響のため、地域経済の活性化は全く感じられていないかもしれません)。
なお、共同通信社は2018年11月から2019年1月にかけて、全1788自治体に対して東京23区からの企業誘致に関するアンケートを実施しています(回答率99%)。アンケート結果は、全市町村の計76%は東京23区からの企業移転が実現するなどの成果はないと回答しています。町村に限定すると計84%は成果がないと回答しています。
地方創生は2060年までの長期的な取組みです。5年間程度では、明快な結果は導き出されないとは考えます。そのように頭で理解しつつも、私は、地方創生は全体的にうまく進んでいないと捉えています。
うまくいかない理由は明確です。地方創生が掲げる「2060年に約1億人の確保」という数字に無理があるのです。この目標がある限り、地方創生は都市圏と地方圏の歪な格差を拡大させていくことになるでしょう。
2.地方創生が生み出したこと
地方創生の目標は「2060年に約1億人の確保」です。人口を確保するのは、①自然増、②社会増、しかありません。自然増は難しいという話をします。
6月に入り、厚生労働省が2019年の合計特殊出生率を1・36と公表しました。同年の出生数から死亡数を引いた人口の自然減は51万5864人となり、過去最大の減少幅です。日本は、いよいよ多死社会に突入しました。
読者は「合計特殊出生率が1・36」と聞いても、イメージがわかないと思います(人口を維持する「人口置換水準」は概ね2・07です)。「1・36」という数字は大変なのです。図表2を作成しました。議論を単純化しています。男性100人、女性100人の地域があったとします。全員結婚しているという前提です。ここに合計特殊出生率の1・36を当てはめると、生まれてくる子どもは136人になります。これは第1世代の人口です。
時が流れ、第2世代となります。136人を単純に2分割します。男性68人、女性68人です。女性68人に1・36をかけると、子どもは92人となります。すなわち「1・36」の持つ意味は、わずか一世代で人口が半減するというバズーカーなみの破壊力を持っているのです。国が掲げる「2025年に希望出生率1・80」は難しいでしょう。自然増を達成していくことは現実的には無理難題なのです※4。
【脚注】
1:詳細は「第2期『まち・ひと・しごと創生総合戦略』」(令和元年12月20日)の「4.第1期の検証」をご確認ください。
2:個人的には「ほんまかいな」と思ってしまいます。確かに仕事をつくったかもしれませんが、その中身は不安定な「非正規」の増加です。地域と地域の「連携」は少なく、(後述しますが)地域と地域の「競争」ばかりです。日々、私は現場を歩いていますが、国の評価は現実を知らない人の「戯言」に思えます。
3:国は「地域における大学の振興および若者の雇用機会の創出による若者の修学および就業の促進に関する法律」(通称「地方大学振興法」)を制定しました。同法は10年間の時限措置として、東京23区にある大学は学部の定員増を認めません。そうすることで、地方圏の若者の大学進学を機に東京への移動を防ぐことを意図しています。ところが、若者は東京に来たいのです。そのため東京23区の大学を中心に、東京圏の大学は高倍率となりました。
4:合計特殊出生率を上げていくことは可能です。東大和市(東京都)は、2013年が1・40だったのが、2015年には1・67まで上げています。その結果、東京都内の市部で第1位となりました。2016年は1・48であり、2017年は1・59となっています。詳細は「東大和市ホームページ」
http://city.higashiyamato.lg.jp/news/index.cfm/detail.1.74155.html
をご確認ください(2020年6月12日アクセス)。
詳細は地方議会人7月号で解説していきます。