議会からの条例入門 第6回 政策条例を見る視点②
議会の条例立案技術の向上をはかるための基本的知識・具体的要点の解説とともに、様々な形で条例を立案する知恵や知識について連載していきます。
4 総則の目の付け所(先月号からの続きです)
⑵趣旨規定
政策条例の第1条は「目的規定」と相場が決まっているものですが、ときには、第1条の見出しが「(趣旨)」となっている条例があります。こうした条例は、法律を根拠に定められた条例が多いものです。この場合、条例制定の根拠ともなった法律があるわけですが、その目的と条例の目的とに違いがあるわけではなく、「その条例制定の目的は?」と尋ねられたら、「法律と同じです」と答えるに違いありません。このように、その条例に独自の目的を謳うまでのことがない場合には、第1条を趣旨規定とし、法律に基づいて定められた旨だけを規定しておきます。条例施行規則の第1条の見出しが「(趣旨)」であるのも同じ理由です。条例施行規則に独自の目的があるわけではなく、条例の目的と同じということになります。
第1条の見出しが「(趣旨)」とあれば、法律を根拠にして定められた条例ではないかと推測してみることです。こうした条例であっても見出しを「(目的)」としている自治体もありますが、それはそれで「うちの自治体のローカルルールではそうなんだ」と確認することができます。
⑶定義規定
政策条例の第2条は、たいがい定義規定が置かれています。その条例に使われている主な用語が定義されているわけですが、すべての用語が定義されているわけではありません。たとえていうなら、「主な登場人物」だけです。条例全体を通じて重要な用語と言い換えることもできるでしょう。条例の一部分だけに出てくる用語については、2条ではなく、出てくる場所で定義します。「幼児(6歳未満の者をいう。以下同じ。)」といったようにです。
先月号で目的規定は、その条例の「あらすじ」だといいました。1条であらすじを読み、2条の定義規定で「主な登場人物」を押さえれば、だいたい、その条例がイメージできるようになります。
⑷基本理念
その条例に基づく施策や措置を行うに当たり、重要となる考え方を「基本理念」として規定することがあります。基本理念は、定義規定の後、責務規定の前といったところが定位置です。条例のなかには理念条例と呼ばれるものがあります。実体的規定の部分がないか、極端に少ない条例をこう呼びます。理念条例は「こんな方向でその分野の行政を行って?」と、押さえるべきポイントや優先順位を示す条例です。こうした理念条例では、特に基本理念の規定が置かれることが多くあります。
行きつけのお寿司屋さんで「大将、任せたよ!」と注文するのもいいのですが、「大将、この季節にうまい魚を中心にお願いね。貝も入れてよ」と注文すると、望むイメージに近いお寿司が味わえるというものです。基本理念もそれに少し似ています。基本理念は議員提案条例でよくみられます。というのは、行政分野によっては、その執行をある程度、執行部側に任せざるを得ないものもあります。とはいっても、単なる理念条例では心もとないので、議会としての注文を基本理念として書き込むのです。
⑸責務規定
政策条例で責務規定が置かれることが多くなりました。それは「攻め」の政策条例が増えたことと関係します。役所に勤め始めた頃の話です。隣の課の先輩職員に「今年の忘年会頼むぞ!」といわれてびっくりしました。まだ、4月です。しかも、役所周辺のお店なんて全然知りません。しかし、時間が経つと、だんだんとその意味が分かってきました。役所では、部の新人は庶務の係員を兼ねます。休暇や残業の申請などを総務部門に取り次ぐのが仕事です。ただ、これは正式な仕事ではないのですが、その部の歓送迎会や忘年会は庶務係で手配するのです。件の先輩は「今年の忘年会の会場は吉田君が探すんだから、いい店を見つけたら覚えておくといいよ」というつもりでいってくれたのでした。
先月号でもお話ししましたが、そもそも法文というのは、「どうして、そうしたのか」の部分がないのです。いきなり「義務付け」などの規定が置かれます。そして、その義務付けなどがこれまでの社会での価値や習慣になじむものなら、条例の導入が大きなハレーションを起こすことはありません。しかし、これまでは大きな役割を期待されていなかった対象に、いきなり大きな義務などを課すものだったとしたら、戸惑いが広がります。そこで「責務規定」の登場です。その条例で役割を期待される対象に、期待することを先に述べておきます。
詳細は地方議会人1月号で解説していきます。