議会からの条例入門 第4回 条例のつくり方(内容編)②
議会の条例立案技術の向上をはかるための基本的知識・具体的要点の解説とともに、様々な形で条例を立案する知恵や知識について連載していきます。
5 住民の声から政策を作る
⑴条例化することの意味
先月号の続きです。先月号で、行政は、「くふう」、「お金」、「法令の整備」をもって問題の解決に当たるといいました。そして、条例を定めなければならない事項が見つかったら、これまでくふうで行っていたことや、補助金などを付けて行ってきたことも含めて条例のなかに取り込むことなどもお話ししました。
別に「内容を増やして大きく見せよう」なんて思っているわけではありません。政策条例を制定するというのは、その分野の政策の重要性を認めてのことです。今風の言葉でいえば、その政策事項の「祭り」なのです。たとえば、あるスーパーが新たにイタリアの食品メーカーの食材を仕入れることになって、イタリアフェアーを開催したとします。もちろん、新たに仕入れることになった食材が中心になりますが、これまでも店頭に並べられていたパスタやワインやオリーブ油も集めて、イタリアンフェアーのコーナーに飾られます。政策条例の制定もそうした面があります。その政策の一覧性を条例で図るという面があります。また、条例に根拠を持つことで、これまで「くふう」や「補助金」で行っていた施策の行政における重要度が上がるという意味もあります。
⑵住民の声を政策に変える
住民の声を政策に変える具体的なイメージにつながる話をしましょう。たとえば、ある市で自転車をめぐる交通事故が増えて問題になっていたとします。市内が平坦で自転車利用者が多く、スピードが出しやすいことが原因と考えられています。警察に協力してもらい、自転車安全利用講習などを様々な場面で行っていますが、事故数はなかなか減りません。議会報告会でも、住民から次のような発言があり、議会からも有効な対策を提案するよう求められました(フィクションです)。
(住民Aの声)
自転車運転のマナーをルールとして教えることが大事なのではないか?ルールを守れる者しか自転車の運転を認めないくらいのことをしないと事故は減らないのではないか。
(住民Bの声)
予防も大事だと思うんです。カッコが悪いかもしれませんが、ヘルメットは命を守るためには有効です。自転車保険も保険料が高いということですが、市が加入をすすめてほしいです。
こうした声を受けて、まず、同じ会派のメンバーなどで議論したり、事務局職員の協力を得て、対策を考えてゆくのがいいでしょう。最初の段階では、「費用がかかりすぎる」とか、「法的に難しい点があるかも…」などと考えず、とにかくその問題を解決するための方法を列挙してみて下さい。その上で、くふうでやれるのか、お金をかければやれるのか、法令の整備が必要なのか、分類して検討を進めます。
早速、住民の声を分析してみましょう。Aさんの述べていることは、マナーをルール化して、それを徹底するということのようです。
まず、現在、行っている自転車安全利用講習をさらに増やし徹底するという方法があります。警察に協力のお願いをしなければなりませんが、市としての持ち出しは特にないでしょう。市が警察の協力を得て、パンフレットを作成して各戸配付するという方法も考えられます。その際に、市内の自転車事故多発ポイントマップを付けて注意を喚起するのもいいかもしれません。いずれにしても、いくらか予算がかかりそうです。
自転車運転のマナーを早い段階から覚えてもらうという意味では、学校での講習などが効果的です。教育内容に立ち入ることになるので、市長ひとりで決めることができません。どういう規定になるにしても、そのため、条例で方向性を示すことは重要です。また、私立学校もある場合には、条例で、学校長に義務付けたり、学校長の責務を設けるという方法があるかもしれません。こうしたことから、この件は「条例」マターです。
いっそのこと、スマホをしながら自転車を運転してはならないとか、傘をさしながらの運転の禁止を条例で定めたらどうだろうという意見もきっと出るはずです。たしかに、義務付けを行うことになるので条例で規定すべき事項です。調査の先回りをして恐縮なのですが、この件は少し注意が必要です。というのは、自転車も道路交通法上、車両に当たります。ですから、道路交通法の交通ルールが当てはまります。さらに、道路交通法の規定を受けて、都道府県の公安委員会が公安委員会規則でプラスアルファーのローカルルールを定められるようになっています。つまり、ストレートに交通ルールとしては条例で定められないのです。条例で規定しようとする場合には、道路交通法等に定める交通方法に関する規定を遵守する責務を定めるなど、少し書き方のくふうをしなければなりません。
詳細は地方議会人11月号で解説していきます。