住民とつながる①
1 住民とつながる理由
「私たちは選挙で選ばれたのだから、いちいち住民の意見を聴く必要はない」。ずいぶんと少なくなりましたが、まだ、こうした主張を強くする議員がいます。
首長は住民の代表ですが、行政のトップでもあります。国会議員は国民の代表ですが、与党議員なら政権を支える役割も期待されています。この点、自治体議会の議員は、純粋に住民の代表として期待されている存在です。
ところが議会の構成は住民とは必ずしも一致しません。都市部の住民の職業で一番多いのは「勤め人」でしょう。しかし、勤め人を代表する議員はほぼいません。議員との兼職が難しいからです。「私はサラリーマンとしての経歴を生かします」と当選しても、当選を重ねるに従って「普通の議員」となります。小さな議会では、住民の職業と議員の職業(兼職の職業)が割と一致します。
しかし、議員の年齢はかなり高くなります。人生経験が豊かなことはよいことですが、議員の構成が世の中の年齢構成と離れすぎることはよくありません。そもそも、自治体の規模に関わらず女性議員が少なすぎるという問題もあります。ですから、それぞれの議員は常にたくさんの住民(特に自分と異なる背景を持つ住民)の意見に触れていろいろな判断をしなければならないのです。
さらにいえば、議員ではなく、議会こそが住民とつながることが重要です。「当選しないとはじまらない」。これは議員の前にある真実です。当選するための住民の数を意識しながら意見を聴くことは、「広く」住民の意見を聴くことと矛盾することがあります。議会基本条例で議会と住民との関係がたくさん規定されているのはそのためです。
2 請願・陳情の位置づけ
⑴取扱いの違いを埋める
住民などの意見を聴く方法として請願や陳情があります。ほとんどの議会基本条例では請願や陳情について規定されています。比較的多いのは次のような規定でしょう。
A 議会は、請願及び陳情を住民による政策提案と位置づけ、その審議においては、請願者及び提案者から意見を聴く機会を設けなければならない。
B 議会は、請願及び陳情を住民による政策提案と位置づけ、必要に応じ、請願者及び提案者から意見を聴く機会を設けなければならない。
請願及び陳情」と同列に挙げていますが、一番大事なことは、請願と陳情の取扱いを同じにすることです。次の憲法16条の規定を見てください。平穏に請願する限りは何人も「請願権」が認められると規定しています。議員の紹介が必要とは一言も書かれていません。請願の取扱いを定めた請願法にもそうした規定はありません。ところが、地方自治法124条(国会法79条も同じ)では「議員の紹介」があったものだけを「請願」として扱っています。そのため、広い意味では請願であっても、議員の紹介がないものは、陳情として、ワンランク落ちた扱いがされていることもしばしばです。
〇憲法
第16条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
陳情への「ワンランクの落とし方」はそれぞれの議会で様々です。陳情は委員会へ付託せずに全議員に参考配付するだけという議会もあります。そこまで差はつけなくとも、郵送された陳情や住民ではない者からの陳情は委員会で審査しないという議会もあります。また、議会運営委員会で重要な陳情と判断したものだけ、請願と同じように扱うという議会もあります。しかし、議会基本条例で「請願及び陳情を住民による政策提案と位置づけ」としたのです。現在の請願と陳情との取り扱いの違いが、その考え方と矛盾しないのか、ゼロベースから見直すことが必要でしょう。
そうはいっても、議会側からの反論も聞こえてきます。陳情には「内容が不明なもの」、「誹謗中傷を含むもの」などがあり、議員が紹介する請願とは同じように扱えないという反論です。なるほど、そうしたことはあるかもしれません。そこで、提案したいのが、議会で基準を作り「問題ある陳情」を選り分けることです。ただ、基準を作るだけでなく、この基準を告示にして住民にも見える形にしておきたいものです。
たとえば、会津若松市議会請願及び陳情の取扱いに関する規程(平成22年市議会告示第1号) 12条1項では、「法令違反、違反行為等を求める内容で公序良俗に反するもの」や「特定の個人若しくは団体を誹謗中傷し、又はその名誉を毀損するもの」などの陳情について、「本会議に上程しないものとし、議長供覧とする」としています。