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Web版議員研修講座 「まち・ひと・しごと創生法 第2期戦略 ー市町村議員のためのガイドブック」連載 第8回

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第8回 「地方創生を成功させる「産学官金労言士」(公民連携)の取組み」

 本連載は「地方創生を実現するために、地方議会議員は具体的に何をすればよいのか?」、また「地方創生を実践するガイド」という2つの視点を持ちます。

 第1期の地方創生を振り返り、第2期の地方創生を成功の軌道に乗せるためのヒントをもとに、読者の皆さんは本連載で示すヒントを深化・進化させていただき、議会での質問や提言に活用していただけると幸いです。

 地方創生が生み出した新しい概念に「産学官金労言士」があります。「産」は産業界、「学」は大学等の学界、「官」は行政(国、地方自治体等)を意味します。「産学官」は以前から使われていました。

 地方創生ではそれに「金」金融界、「労」労働界、「言」言論界(マスコミ)、「士」士業(弁護士、中小企業診断士など)が加わりました。すなわち、地域を構成する多様な主体の協力・連携により、地域づくりを進めていこうとする意図があります。産学官金労言士は、公民連携(官民連携)という言葉でも表現されます。

 本稿は地方創生を進めるために産学官金労言士の事例をあげ、その意義を考えます。

 今回は筆者が経験した要素が多く含まれます。経験から考察するため、定性的な観点が強くなっています(科学的でないかもしれません)。読者に対する問題提起という意味があります。

1 地方創生における公民連携の事例

 最初に地方創生における「産学官金労言士」の事例を紹介します。

 西条市(愛媛県)はリコージャパン株式会社と連携し、公教育の現場にICT(情報通信技術)を導入してきました。現在もICTを活用した新しい授業スタイルの構築に取り組み、Web会議システムと2枚の大型スクリーンで学校間の教室をつなぎ、合同授業を実施しています。その結果、学校の教育の質を向上させてきました。実際、子どもたちの学力は向上しています(図参照)。

 なお、西条市は総務省の「地域おこし企業人交流プログラム制度」ⅰを活用することにより、財政負担を圧縮しています。

 また西条市は、アウトドア総合ブランドである株式会社モンベルと包括連携協定を締結しています。同市の地域資源の一つに石鎚山ⅱがあります。石鎚山を活用したアウトドア活動の活性化を目的にモンベルと連携を進めています。

 さらに西条市はエーザイ株式会社、NTT西日本といった民間団体との連携も進めています。その意義について、玉井敏久市長は「民間企業には様々なノウハウがあります。そのような企業とタイアップすることで、スマートシティの推進、健康づくりなどの様々な取組みをスケールアップし、西条市を盛り立てていきたいと思います」と述べていますⅲ。

 西条市は民間団体との連携に加え近隣自治体ともつながりも強めています。久万高原町、いの町、大川村と、石鎚山系のブランド価値創造につなげることを目的に「石鎚山系のブランド価値創造に向けた包括的連携協定」を締結しています。西条市は持続的に発展する地域を目指し、多様な主体との協力・連携を推進しているのです。

 戸田市(埼玉県)は、株式会社読売広告社と連携をして「シビックプライド」(CivicPride)の醸成に取り組んでいます。シビックプライドは「都市や地域に対する市民の誇り」という意味がありⅳ、近年注目を集めつつある概念です。同市は読売広告社の知見を活用し、「シビックプライドワークショップ」を実施しました。同ワークショップは、住民が持つ多様性を活かすことで、シビックプライド向上の達成が目的です。

 戸田市は読売広告社以外にも、東京ガス株式会社、三井住友海上火災保険株式会社、大塚製薬株式会社、ITbookホールディングス株式会社、日本体育大学など、多くの民間団体と連携を推進しています。こういった連携を進める理由について、同市のホームページには「市民サービスのより一層の向上を目指し、様々な分野において、民間と市がそれぞれの特性や資源を生かし、協力し合う、包括連携協定の締結に取り組んでいます」と明記されています。

 東大和市(東京都)は、東京大学未来ビジョン研究センターと協定を締結しています。同センターが地方自治体と協定を結ぶのは初めてのこと。東大和市は同センターの知見を活用しながら「健幸都市」の実現に向けて取り組んでいます。

 具体的には「リビングラボ」(LivingLab)ⅴの手法を取り入れた「東大和ライフスタイルラボ」を展開しています。同市は、ユニ・チャーム株式会社、コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社、リコージャパン株式会社、関東学院大学法学部などとも包括協定を締結していますⅵ。

 東大和市は、地方創生の推進のために調査研究を行う個別事案検討チームを結成しました。40歳未満の若手職員から構成されており、毎年度10〜15名程度が選出され、月に1〜2回程度集まり、調査研究を進めています。なお、同チームにはリコージャパンの社員も毎回参画しています。

 じつは、市の政策立案に民間企業の社員が入ることはほとんどありません。東大和市にのみ特徴的な取組みといえるでしょう。民間企業の社員が政策立案に参画することで市の政策づくりの現場に新しい視点が提供され、イノベーション(新機軸)の土壌となっています。

 西条市、戸田市、東大和市は、産学官金労言士を推進することにより、イノベーションを創出してきました。地方創生を成功の軌道に乗せたいのならば、積極的に多様な主体と協力・連携していくことが求められます。

【脚註】

ⅰ)地域おこし企業人交流プログラム制度に関して、総務省のホームページには「地方公共団体が、三大都市圏に所在する民間企業等の社員を一定期間受け入れ、そのノウハウや知見を活かし、地域独自の魅力や価値の向上等につながる業務に従事してもらうプログラム」と記しています。同制度は、特別交付税措置が行われています。西条市は同制度を活用し、リコージャパン株式会社から人材を受け入れています。

ⅱ)石鎚山は、四国山地西部に位置する標高1982mの山です。近畿以西を西日本とした場合、西日本最高峰です。西条市と久万高原町の境界に位置しています。

ⅲ)詳細は、次の文献を参照してください。◎牧瀬稔著『地域創生を成功させた20の方法』(秀和システム、2017)

ⅳ)シビックプライドを「郷土愛」と捉えるケースもあります。しかし、やや異なります。郷土愛とは「住民が自ら育った地域に対して抱く愛着や心情」です。すなわち、郷土愛は「自ら育った地域」ということが欠かせません。一方で、シビックプライドは「自ら育った地域」は関係ありません。また、シビックプライドは都市や地域に対する愛着を示すだけではありません。「シビック」(Civic)には「権利と義務を持って活動する主体としての市民性」という含意があるそうです。そこからシビックプライドには、自分自身が関わって都市や地域を良くしていこうとする、当事者意識に基づく自負心が内包されます。詳細は次の文献を参照してください。◎牧瀬稔・読売広告社ひとまちみらい研究センター編『シティプロモーションとシビックプライド事業の実践』(東京法令出版、2019)

ⅴ)リビングラボとは「新しい技術やサービスの開発のために、生活者と企業・行政の共創活動、またはその活動拠点」と定義できます。「生活空間(Living)が実験室(Lab)である」というのがリビングラボの根本的な考え方になります。なお、リビングラボの基本はオープンイノベーションです。オープンイノベーションとは「地方自治体単独で取り組むのではなく、地域住民や民間企業、大学など多様な主体が持つアイデアやサービス、ノウハウなどを組み合わせ、革新的なビジネスモデルや地域活性化につなげていく」ことです。今回紹介している産学官金労言士(公民連携)はオープンイノベーションそのものと言えます。

ⅵ)手前みそになってしまうかもしれませんが、東大和市の採用試験ポスターは関東学院大学法学部に所属する大学生が製作しました。同市を受験する方は若い人です。その若い人目線を得るために、大学生がポスターを製作しました。また法学部の「防災・復興演習」という正規の科目では、東大和市をフィールドにして防災教育について検討し、市長等に政策提言しています。 

詳細は地方議会人2月号で解説していきます。

→地方議会人2月号の詳細はコチラをクリック願います

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