第11回 「雇用増」の基本的な考え方
本連載は「地方創生を実現するために、地方議会議員は具体的に何をすればよいのか?」、また「地方創生を実践するガイド」という2つの視点を持ちます。
第1期の地方創生を振り返り、第2期の地方創生を成功の軌道に乗せるためのヒントをもとに、読者の皆さんは本連載で示すヒントを深化・進化させていただき、議会での質問や提言に活用していただけると幸いです。
働いて賃金を得なくては、多くの人にとって日常生活は持続しないでしょう。地方自治体が人口を維持し、あるいは増加させていくためには、雇用が求められます。雇用は人口を牽引する一つの要素です。人口が維持できている地域は、一定数の雇用があります。雇用があれば、UターンやJターンが可能かもしれません。ただし、何かの業種に限定した雇用ではなく、多様な雇用があることが前提です(例えば、製造業だけではなく、多様なサービス業を含んだ多業種があることがベストです)。
今回は雇用を増加させていく視点を考えます。前号、前々号において、自然増と社会増を細分化(セグメント化)しました。雇用増も細分化して考えます。
1.雇用増の細分化
雇用増は細分化して検討していきます。それは図表1のとおりです。まずは「①いまある事業者」と「②いまはない事業者」に分けることができます。地方自治体が政策を展開し、雇用増を実現しようと考えるときは、「①と②のどちらの事業者を対象に雇用増を目指していくのか」を明確にしていくことが大切です。
何度か指摘していますが、「①いまある事業者と②いまはない事業者を〈どちらも〉対象とする」のはよくありません。一般的に行政資源(人・物・金など)は限りがあります。都道府県や政令指定都市、中核市のような規模の大きな自治体でない限りは、「①いまある事業者」か「②いまはない事業者」のどちらかに絞り、行政資源を集中的に投下して、政策を進めていくことが肝要です。
あるいは、どちらかに限定しなくても、優先順位を明確にする必要はあります。すなわち「あれもこれも」から「あれかこれか」への政策思考が求められます。
2.「いまある事業者」を考える
「①いまある事業者」を細分化します(図表1を確認しながら読み進めてください)。言い方は悪いですが「③やる気のない事業者」と、「④やる気のある事業者」に区別できます。
まずは「③やる気のない事業者」は、大きく「⑤延命措置」と「⑥業種転換」に分けることができます。それぞれを意識した政策(施策や事業を含む)を実施します。
自治体が実施している既存の雇用政策を概観すると、事業者に対して多くの補助金の提供による「⑤延命措置」というケースが少なくありません。もちろん、この政策も重要な側面があります。やや消極的な考えになりますが、事業者が倒産や廃業等をすると、失業者が発生してしまうかもしれません。
また、連鎖倒産の可能性もあります。その結果として、地域経済に負の影響を与えかねません。そこで「⑤延命措置」という選択肢もあるかもしれません。また「⑤延命措置」をしている間に事業者の意識が変化し、世代交代が起こることにより、「④やる気のある事業者」に変貌する可能性があります。事業者がやる気になることを期待しての延命措置もあるでしょう。
また「⑥業種転換」も重要な一つです。「③やる気のない事業者」が業種転換に取り組むことにより、やる気が湧いてくる場合があります。これは「事業者の『やる気』の発掘」と指摘できます。
今日、業種転換の成功事例は枚挙に暇がありません。その中で、しばしば話題に上がるのが建設業の農業参入です。もちろん、すべての事例が成功しているわけではありませんが、農業は建設業にとって、比較的同じ経営資源が活用できることから、成功事例も登場しています。このように業種転換を促進することで、既存の事業者を再活性化し、雇用の維持や増加を目指すことが可能となりますⅰ。
次に「④やる気のある事業者」を対象とします。この「④やる気のある事業者」も2類型に分けられます。「⑦プラス(+)1人以上の雇用増の促進」を目指すケースと、もう一つは規模の小さな「小企業」から「中小企業」へと成長を促し、「中小企業」を「中堅企業」へと変貌させていくという「⑧事業者の規模拡大」を目指す方向性です。
前者「⑦プラス(+)1人以上の雇用増の促進」は、既存の事業者がそれぞれ1人以上雇用数を増やすことにより、自治体(地域全体)の雇用の増加をめざす取組みです。後者「⑧事業者の規模拡大」は単一の事業者(ないしは数社)に着目し、その事業者が成長することにより、雇用の増加を達成しようとする考えです。
このように雇用の維持や増加をめざしていくために、「①いまある企業」を対象とした場合は、「⑤延命措置」「⑥業種転換」「⑦プラス(+)1名以上の雇用」「⑧規模の拡大」と4類型できます。
地方創生を進める場合は、自治体が置かれている状況や地域性などを考慮して、4類型の中でどこかに優先順位をつけて集中的に政策を実施することが求められます。そうすることで、雇用増が達成される可能性は高まるでしょう。ただし、すべてを同時に実施するのではなく、事前にしっかりと政策研究を行い、優先順位をつけて、限られた行政資源を投下していくことが求められます。
詳細は地方議会人5月号で解説していきます。