行政監視から行政提案へ①
1 政策提案は行政監視の延長監視にある
(1)議員提案条例をめぐる「嘘」
「執行部は年に何十本も条例案を提出するけれども、議員提案の政策条例は1本もない」。時にはそんな批判が議会に向けられます。条例を作らない議会は「ねずみをとらない猫」のようにいわれますが、条例は「提案しよう」と決意して生まれるものではありません。議員のみなさんから「議員提案にいい条例案はありませんか」といわれることがあります。お寿司屋さんにいくと「大将、今日、おすすめある」なんて尋ねたりしますが、「いい条例案があるか」と聞かれて「ちょうど、旬の条例がありまして…」なんて答えられるわけがありません。
たしかに、執行部提案の条例案はたくさんあります。しかし、その内容を見ると全部が政策条例というわけではありません。地方自治法244条の2第1項には、公の施設の設置及びその管理に関する事項は条例によるべきことが定めています。極端な場合には公の施設の名称を変更するだけでも一部改正条例が提案されます。また、法改正に伴った整理のための条例改正も多いものです。こうした条例案を議員提案で出すというのは普通、考えられません。条例のメンテナンスに属するからです。自治体独自の政策条例やそうした政策条例の改正案という視点で見ると、執行部提案の条例案も、それほどの数はないはずです。
(2)「政策形成過程の説明」の条文の意味
議会からの政策提案というと条例立案が思い起こされますが、そればかりではありません。そもそも、政策提案は行政監視機能を発揮していくなかで生まれるものです。一般質問や予算決算審議を通じて解決の方向性などを示すことも、ぐずぐずしている執行部の背中を押して必要な条例案を提出させることも、政策提案機能を果たしたと評価できます。その意味では、条例案を作ることだけが議会の政策提案機能の発揮ではないのです。
ただ、行政監視機能を発揮しているうちに、「議会で条例を作るしかない(改正するしかない)」と議員の多くが考える案件にも出会います。そうしたときには、議員提案条例が求められることになります。
執行部というのは「大きな船」です。なかなか政策の方向転換ができません。また、政策も多くの調整を経て作られています。そのなかで届きにくい住民の声が消されてしまうことがあります。「パーフェクトなもの」として議会に説明される執行部の政策ですが、実はいくつもの「ほころび」を抱えているものなのです。「〇〇政策についての課題と対策を問う」式の一般質問を何回続けても、議会がその「ほころび」にたどり着くことはできません。まずは、根拠などを合理的に示した上でその「ほころび」を指摘し、改すべき方策に結び付く形で行政監視機能を発揮すべきです。これが政策提案に向けてのスタートとなります。
こうした行政監視を行うためには、基本的な行政に関する情報が必要となります。これが議会基本条例に置かれる「政策形成過程の説明」の条文の意味なのです。
〇栗山町議会基本条例
(町長による政策等の形成過程の説明)
第6条
町長は、議会に計画、政策、施策、事業等(以下「政策等」という。)を提案するときは、政策等の水準を高めるため、次に掲げる政策等の決定過程を説明するよう努めなければならない。
⑴政策等の発生源
⑵検討した他の政策案等の内容
⑶他の自治体の類似する政策との比較検討
⑷総合計画における根拠又は位置づけ
⑸関係ある法令及び条例等
⑹政策等の実施にかかわる財源措置
⑺将来にわたる政策等のコスト計算
2 略
国は議院内閣制をとっています。与党議員は行政府の一員として行政情報に接する機会があります。こうした経験を通じて、行政情報の意味や使い方を学びます。
しかし、自治体議員の場合にはこうした経験を積むことができません。ですから、議員全員が議案審議に必要な最低限の情報を手にする機会が与えられなければならないのです。確かに、「与党議員」の場合なら、「先生だけには詳しい資料をお渡しします」などと議案の説明を受ける場面もあるかもしれません。しかし、それはシステムとして行われているものではありません。経験上、別な議員にはもっと詳しい資料が届けられているはずですから、議員に平等に情報が伝えられていないという面でも、また、情報を通じて議員の分断とコントロールがなされているという点からも問題があります。
詳細は地方議会人11月号で解説していきます。