議会からの条例入門 最終回 ―法令用語②―
議会の条例立案技術の向上をはかるための基本的知識・具体的要点の解説とともに、様々な形で条例を立案する知恵や知識について連載していきます。
(2)繰り返しを避けるための用語(先月号の続き)
・「みなす・推定する」
「みなす」と「推定する」はよく法文で使われます。その違いをまとめると表1のようになります。「みなす」は、異なることは百も承知で、同じものとして扱うところがポイントです。民法886条1項はその使い方をよく表しています。胎児はまだ生まれていないから胎児なのです。それを「生まれたものとみなす」というのですから。「違うだろう!」と言っても、みなされたことがひっくり返りません。一方、「推定する」は、一応、そうしたものとして扱うとしたものに過ぎませんから、反証があればひっくり返ります。では、民法772条1項の( )には、「みなす」と「推定する」のどちらが入るでしょうか…。もちろん、「推定する」です。
○民法(相続に関する胎児の権利能力)
第886条胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
2 略
(嫡出の )
第772条妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と( )。
2 略
・「前項の場合」・「前項に規定する場合」
これまで気にしたことがなかったかもしれません。知ってしまったらずっと気になります。それが「前項の場合」と「前項に規定する場合」の違いです。どちらも条文の第2項以下で、前の項の内容を指していう表現です。法令では頻繁に使われています。
「前項の場合」は、前項の内容全体を受けています。ところが、「前項に規定する場合」のときには、受けているのは前項のうち「~の場合」など仮定的な条件の部分だけなのです。文字で説明するより、実際の条文例を見てもらった方が早いかもしれません。
○地方自治法
第260条の22認可地縁団体がその債務につきその財産をもつて完済することができなくなつた場合には、裁判所は、代表者若しくは債権者の申立てにより又は職権で、破産手続開始の決定をする。
②前項に規定する場合には、代表者は、直ちに破産手続開始の申立てをしなければならない。
地方自治法260条の22第2項は「規定する場合」なので、前項のうち「~の場合」を探します。「財産をもつて完済することができなくなつた場合には…」を受けることになります。「破産手続開始の決定をする」場合と読むと意味が異なってしまいます。「前項」の部分が「前条」となっても使われ方は同じです。
⑶広がりを示す用語
広がりを示す用語についても説明しておきましょう。まずはよく知られている用語の確認から始めます。
・「以上・以下」・「超える・未満」
「以上」と「超える」の違いは、起点が含まれるかどうかの違いがあります。たとえば、「65歳以上」とあれば65歳を含みますが、「65歳を超える」とあれば65歳は含みません。同じように、「65歳以下」とあれば65歳は含みますが、65歳未満といえば65歳は含みません。
・「から~まで」
「第○条から第△条まで」とある場合には、起点である第○条も、終点である第△条も含みます。これはまず問題ないでしょう。問題なのは「第○条乃至第△条」という表現です。「乃至」は「ないし」と読みます。「『乃至』って『又は』って意味じゃないの?」。そう誤解している人が多いのです。実は、「第○条乃至第△条」は「第○条から第△条まで」の古い表現なのです。こうした表現は古い法律や条例には意外に残っています。たとえば地方自治法259条5項にも次のような表現があります。
○地方自治法
第259条①~④略⑤第1項乃至第3項の場合において必要な事項は、政令でこれを定める。
・「から、から起算して」
「5日間」とかいった期間を定めたときの数え方の原則が民法には定められています。たとえば、「今日から5日間」といった場合には、最初の日は含めず(参入せず)、翌日からカウントして5日間ということになります。
詳細は地方議会人3月号で解説していきます。