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Web版議員研修講座 「まち・ひと・しごと創生法 第2期戦略 ー市町村議員のためのガイドブック」連載 第10回

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第10回 「社会増」の基本的な考え方

 本連載は「地方創生を実現するために、地方議会議員は具体的に何をすればよいのか?」、また「地方創生を実践するガイド」という2つの視点を持ちます。

 第1期の地方創生を振り返り、第2期の地方創生を成功の軌道に乗せるためのヒントをもとに、読者の皆さんは本連載で示すヒントを深化・進化させていただき、議会での質問や提言に活用していただけると幸いです。

 定住人口を増やす一手段は「自然増」です。自然増の視点は前回紹介しました。もう一つの方法に「社会増」もあります。今回は社会増を中心に地方創生(人口減少の克服)を考えます。また、前回と今回の内容から、筆者が主張したいポイントも言及します。

1. 社会増の意味

 社会動態の意味を確認します。社会動態とは「一定期間における転入・転出に伴う人口の動き」です。一定期間(多くの場合は1年間です)において、転入者が転出者を上回った場合は「社会増」(転入者数>転出者数)と言います。逆に転入者数より転出者数が多いと「社会減」(転入者数<転出者数)と捉えます。定住人口を維持し、あるいは増加していくためには社会増は必須です※1

 日本というマクロの視点で捉えると、社会増を達成するためには「外国人」の移入が考えられます。外国人が日本に定住することにより、日本の人口は純増となります。一方で市区町村というミクロの観点から考えると、外国人の移入に加え、他市区町村からの転入者を増やすことも社会増につながります※2

 定住人口を増やすと決めた場合、①外国人を対象に国外から転入者を増やす、②国内の住民を対象に、他自治体から転入者を増やす、という2パターンしかありません。読者はどの手段を採用しようと考えますか。

2. 社会増の取組は2手法のみ

 ここでは外国人を対象とせず、国内の住民を対象に考えます。社会増を達成するためには、住民を2類型する必要があります。それは①既存住民、②潜在住民です。

 前者の既存住民とは「現在自分たちの自治体に住んでいる住民」です。後者の潜在住民とは「現在自分たちの自治体に住んでいない住民」です(自分たちの自治体外に住んでいる他自治体の住民)。相模原市を事例に考えると、既存住民とは相模原市内で生活している住民になります。潜在住民とは、相模原市外の住民です。それは、近隣の八王子市民や町田市民かもしれないし、遠方の札幌市民や那覇市民かもしれません。

 社会増を達成するためには、①既存住民の転出を抑制する、②潜在住民の転入を促進する、という2手法しかありません(図表)前回、自然増を進める4視点を紹介しました。社会増を目指す方法も、自然増と同様に単純です※3

 具体的な取組みを言及します。既存住民の転出を抑えるための一つの秘訣は「(住民に)住宅を購入してもらう」ことです(もちろん、ほかにも多くの事業があります)。

 住宅を購入する際、一括払いで購入する住民は少ないと思います。多くは数十年の住宅ローンを組みます。住宅ローンを組むと、容易に引っ越しすることができなくなります。そのため少なくない自治体が、住宅の購入に際して補助金を支給しています。また、地域金融機関と連携し住宅ローンの金利を下げる事例もあります。

 ここまで読むと「住宅を購入してもらうこと」が、とても良く思えるかもしれません。しかし住宅の購入も万全ではありません。

 住宅を購入した住民は、住宅ローンを完済した頃に、高齢者になっていることが多くあります(例えば35歳で住宅を購入し30年間の住宅ローンを組むと「65歳」です)※4。すなわち住宅を購入することは、高齢者が確実に増加することを意味します(高齢者の存在が決して悪いわけではありませんが、扶助費等の財政支出の圧力がかかります)。このように完璧な政策はありません。政策にはメリットとデメリットが必ずあります。メリットとデメリットを押さえたうえで、総合的に判断することが求められます。

 潜在住民の転入を促進する手法も多様です。本連載では戸田市(埼玉県)や西条市(愛媛県)の事例を紹介しました。両市に共通しているのは、ターゲットに即したプロモーションが奏功したことです。プロモーションの基本的な視点については、本連載の中で詳述したいと思います。

 繰り返しますが、社会増を実現するには2手法しかありません。①既存住民を対象とするのか、②潜在住民を対象とするのか、です。読者は、どちらの方法で定住人口の維持・増加を目指しますか※5

【脚註】
※1 自然増だけで定住人口を維持・増加するためには、自治体内の合計特殊出生率が2・07(人口置換水準)以上でなくてはいけません。しかし、この数字は現実的には難しいでしょう。ちなみに2019年の合計特殊出生率は1・36となっています。

※2 ただし、自分の自治体に他自治体から転入者が促進することは、他自治体にとっては転出者の増加となります。この状況はゼロサム(zerosum)を意味します。ゼロサムとは「合計するとゼロになる」ことです。プラスマイナスゼロと同じ意味です。しかし実際はゼロサムではありません。なぜならば、現在の日本は人口が減少しているからです。日本の人口という全体が縮小しつつある中で、社会増を目指すことは、人口の奪い合い競争が起きてしまいます。現在の地方創生は、人口獲得競争の側面があります(ただし、近年は、市区町村は疲れ気味になっているように感じます)。日本の人口が減少していますから、ゼロサムではなく、実は「マイナスサム」(minus-sum)」の状況です。マイナスサムの意味は「合計してもマイナスになる」です。マイナスサムの時代においては、一部の圧倒的な勝者と大多数の敗者に分かれていく傾向があります。このような状況が良いのか、悪いのかは、読者なりに考えてください。

※3 個人的には、物事をシンプルに考えないといけないと思います。シンプルのほうが関係者の理解は進み実行性も高まります。ところが自治体の現場に行くと、複雑怪奇に考える傾向が少なくありません。この点は改善すべきことと思います。

※4 住宅金融支援機構「2020年度 住宅ローン貸出動向調査」によると、2019年度は30年以上の住宅ローンを組む割合が約68%となっています。

※5 繰り返しになりますが、「②潜在住民を対象」を選択すると、住民の獲得競争が起きます。これが良いのか悪いのかは読者の価値判断になります。ところが、近年では人口減少を前提にした地域運営の機運も見られつつあります。例えば、筆者が提唱している「活動人口」は人口が減っても元気な地域を創造していく一視点です(活動人口をと地域運営の柱に入れる自治体が登場してきました)。活動人口とは「地域に対する誇りや自負心を持ち、地域づくりに活動する者」です。本連載で言及したいと思います。

詳細は地方議会人4月号で解説していきます。

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