議会からの条例入門 第5回 政策条例を見る視点①
議会の条例立案技術の向上をはかるための基本的知識・具体的要点の解説とともに、様々な形で条例を立案する知恵や知識について連載していきます。
1 まず目から肥えてくる
テレビにはたくさんのグルメリポーターが出てきます。本当に料理のことに詳しく、料理の良さや味のイメージを的確に伝えてくれるレポーターもたくさんいます。ただ、売れっ子のグルメリポーターが、おいしい料理を作れるかといえば、必ずしもそうではないかもしれません。「口が肥えること」と「腕があがること」とは別なことだからです。
ところが、条例の場合にはこれが一致します。条例の場合には、口ではなく「目が肥える」わけですが、「目が肥えること」と「腕があがること」がほぼ同時に進行するのです。条例を読んでいて、「この条文の順序は逆なんじゃないの?」とか「罰則の書き方が少し甘いかも?」などと感じたら、それは腕が上がってきた証拠です。条文を起案する力がついてきていることでしょう。
以前、議院法制局にいたからでしょう。「条文を起案できるようになるにはどんなことをすればいいですか?」と尋ねられることがあります。そのときには「目の付け所を押さえて条文を読むことです。自然に書けるようになります」とお答えします。議員のみなさんは、議会の一員として条例制定にかかわります。また、仕事がら首長の規則などの例規を読むことも多いことでしょう。
条例にしろ、規則にしろ、基本的な条文の組立ては同じです。こうした際に、目の付け所を踏まえて読んでいると、だんだんと、目が肥えて、自然と腕があがっていくはずです。連載では、そうした目の付け所をいくつかお話ししようと思います。
2 条文の構成
⑴本則と附則
まず、条例などの例規は、本則と附則に分けることができます。本則というのは、これからもずっと使われる規定のことです。附則は、新制度にうまくバトンタッチするために必要な規定です。たとえば、これまで自由に商売できていたのに、条例で急に商売をするには知事の許可を得なければならなくなったとします。これまで商売をしていた人にとっては死活問題です。
こうしたとき、これまでその商売をしていた者は届出を出すだけで一定期間、商売を続けてもよいという特例を定めたりします。こうしたことは完全に新制度に移ってしまえば必要ない規定ですから、附則に置かれます。「この条例は、平成△年〇月×日から施行する」といった施行期日が定められている条文が附則第1条です。それ以降の条文が一般的に附則となります。附則はテクニカルな規定も多いので、附則についてはこの程度にして、より政策的な内容を表現する本則の説明に移ります(表1)。
⑵本則の4部構成
新聞には紙面割というものがあります。昨日のプロ野球の結果を調べるのに、一面から順番に探す大人はいないでしょう。購読している新聞なら、スポーツ欄がどこかすぐに分かるはずです。それはそれぞれの購読紙で、どこにどんな記事が掲載されているかの紙面割が頭に入っているからです。
法律や条例などの例規も、紙面割みたいなものがあります。大きく、「総則」、「実体的規定」、「雑則」、「罰則」の四つの分野に分けて構成されています。そして、それぞれで規定される事項が決まっています。
総則では、これから条例などを読むに当たって知っておいてもらいたいことが規定されます。目的規定や定義規定、それから条例などを貫く基本理念などが規定されます。その次の実体的規定はその例規の中心的な規定です。規制条例ならその規制のしくみなどが並びます。補助に関する条例なら補助に必要な規定が並びます。その次の雑則は、全体にかかわることではあっても、比較的細かい規定が置かれます。最後に罰則がある場合には罰則が置かれます(表2)。
章名から、簡単に4部構成がイメージできる場合もありますが、章が置かれていない条例でも、「この辺りから実体的規定が始まるかな?」などと四つの分野に分ける「練習⁉」をすると目が肥えるのが速くなります。どこにどんな規定が置かれているのかだいたいのイメージができると、必要な条文を探すのも早くなります。その感覚は起案にも生かすことができます。
詳細は地方議会人12月号で解説していきます。