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新着情報 Web版議員研修講座 「まち・ひと・しごと創生法 第2期戦略 ー市町村議員のためのガイドブック」連載 第15回(最終回)

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第15回(最終回) 競争の地方創生から共創の地方創生へ

 本連載は「地方創生を実現するために、地方議会議員は具体的に何をすればよいのか?」、また「地方創生を実践するガイド」という2つの視点を持ちます。

 第1期の地方創生を振り返り、第2期の地方創生を成功の軌道に乗せるためのヒントをもとに、読者の皆さんは本連載で示すヒントを深化・進化させていただき、議会での質問や提言に活用していただけると幸いです。

1.競争の地方創生

 本連載は2015年からスタートした「地方創生」を取り上げてきました(地方創生の根拠法は2014年11月28日に公布された「まち・ひと・しごと創生法」です)。すでに第1期地方創生(2015~2019年度)は終了し、現在は第2期に入っています。

 地方創生の目標の一つは「2060年に約1億人の確保」です。ちなみに、まち・ひと・しごと創生本部が公表した『まち・ひと・しごと創生長期ビジョン』(平成26年12月27日)」によると、2060年に日本の人口は約8674万人まで縮小します。すなわち、地方創生は将来推計人口よりも約1400万人の上乗せを目指しているのです。この壮大な目標を実現するために頑張ってきました(頑張っています)。

 国や地方自治体が頑張っているものの、さらに民間企業が地方創生に参入し取り組んでいるものの、日本の人口は縮み続けています。2020年国勢調査(速報値)を確認すると、前回の2015年国勢調査と比較し、約87万人も減少しました。人口が減り続ける中で、自治体は人口の維持を目指しています。その結果「自治体間競争」が発生しました※1

 このような状況を私なりに一言で表現すると「競争の地方創生」となります※2。A自治体の人口が増えると、B自治体の人口が減少するという構図です。現実的には、東京圏を中心とした一部の自治体が大きく人口を増やし、地方圏の大多数の自治体の人口が減少する歪な構図です。この状況は、言い方に語弊がありますが、自治体同士が殴り合っている 状態です※3

 地方創生が始まり、5年間も殴り合っていると、さすがに多くの自治体に疲労感がでてきます。どんなに頑張っても人口の維持や増加は難しいことが認識できるからです※4。その結果、自治体の意識は「競争の地方創生」から「共創の地方創生」へと変化していきます。

 本連載は、今回が最終回。おそらくこれから主流となってくる「共創の地方創生」に向けた一つのキーワードとして「シビックプライド」(Civic Pride)が最終回のテーマです。また地方創生に関する筆者の私見を記して終了とします。

2.シビックプライドの可能性

シビックプライドの定義

 これまでもシビックプライドに触れてきています。ここで再度確認しましょう。前回「活動人口」という概念を紹介しました。「地域に対する誇りや自負心を持ち、地域づくりに活動する者」と定義できます(「良い関係人口」と捉えてもよいでしょう)。活動人口を創出するためには、住民や関係者に対するシビックプライドの醸成が重要です(もちろん強制はよくありません)。

 シビックプライドとは、「都市・地域に対する市民の誇り」という概念で使われます。日本の「郷土愛」という言葉と似ていますが、単に地域に対する愛着を示すだけではありません。郷土愛は「住民が自ら育った地域に対して抱く愛着や心情」です。郷土愛に「自ら育った地域」という事実は不可欠ですが、シビックプライドに「自ら育った地域」は関係ありません。そもそも「シビック(市民の/都市の)」には権利と義務を持って活動する主体としての市民性という意味があります。つまりシビックプライドは「自分自身が関わって地域を良くしていこうとする、当事者意識に基づく自負心」を指します※5

シビックプライドの効果

 シビックプライドの効果は、いくつか指摘されています。例えば「市民一人ひとりが感じる都市への誇りや愛着が行動として表出することで、まち全体のムードがつくられていく」があります(一般財団法人アジア太平洋研究所『水都大阪のシビックプライド』2012年)。また「シビックプライドを進めることにより、点がいっぱい繋がり、線になり、線が面を作り、新しい活動、経済活動が生まれていく」とも指摘されています(経済産業省四国経済産業局『観光効果を活用した地域住民の地域に対する愛着と誇りと自負(シビックプライド)の醸成事業成果報告書』2011年)。

 そのほか、既存のシビックプライドに関する研究を確認すると、① 防災活動等に積極的に参加する。② 継続居住意向を示し、地域活動へ積極的に参加する意思が高い。③ 町内会活動やまちづくり活動等の地域活動に熱心になる。④ 地域への責任感、地域活性化行動、地域貢献取り組み意志、生活満足にプラスの効果が認められる。⑤ NPO活動の活発化、Uターンの高まり。などが言及されています※6。シビックプライドには、良い効果が見られるのです。そのためシビックプライドに注目する自治体は増えつつあります。

シビックプライドの条例

 情報提供の意味を込め、シビックプライドに関する条例を紹介します。相模原市に「さがみはらみんなのシビックプライド条例」(通称「さがみん条例」)があります。全国で唯一のシビックプライドを意識した条例です※7。相模原市におけるシビックプライドとは「まちへの「誇り」「愛着」「共感」をもち「まちのために自ら関わっていこうとする気持ち」」と定義しています。

 相模原市条例の文体は「ですます調」を採用しています。その意図について、相模原市のホームページには「子ども達を含め、多くの皆様にご覧いただき、親しんでいただけるよう、難しい漢字や表現をできるだけ避け、分かりやすく簡潔な内容及び文体としております」と記しています。

 前文には、隠し文字が埋め込まれています。前文1行目の冒頭の「さ」を下にたどれば「さがみ果ラ踏あん」となります。これは「さがみはらファン」と読めます。また、前文1行目の最後の「自」を下にたどれば「自びっクプらいド」となります。つまり「シビックプライド」が隠されています(図参照)。シビックプライドの当事者となる住民や関係者に親しみを抱いてもらうため、相模原市条例は多くの工夫が凝らされています※8

 相模原市は同条例を検討している最中から、シビックプライドに関する事業を多く実施しています。その結果、読売広告社が実施する「シビックプライド調査」(シビックプライドランキング)が大きく上昇しています。また2020年国勢調査(速報値)では、人口は維持できています(相模原市の人口は減少していません)。

 読者の自治体がシビックプライドに注目するのならば、条例という法的根拠を用意して推進することも一案かもしれません。

【注】

※1 自治体間競争とは「地方自治体がそれぞれの地域性や空間的特徴などの個性(特色)を生かすことで、創意工夫を凝らした政策を開発し、他地域から住民等を獲得すること」と定義しています。

※2 競争は悪くありません。メリットは多々あります。一例は行政サービスの「質的向上」が促進されます。民間企業は激しい競争の中からイノベーションが発生します。イノベーションは経済を発展させていく原動力となります。しかし、現在の自治体間競争は、行政サービスの「量的拡大」に重きがあります。「医療費は何歳まで無料」というのは、典型的な量的拡大です。このような競争は我慢比べであり、ほとんど意味がありません。

※3 筆者はアドバイザーとして自治体に関わっています。そこで読者から「牧瀬も自治体間競争の片棒を担いできたのだろう」と言われそうです。このことは否定しません。筆者は、首長が「人口を維持したい(増やしたい)」と望むならば、職員と一緒に首長の思い(願い)を実現するために、自治体間競争に勇んで挑み、勝ち抜いてきました。首長の思いを実現するのが、筆者のようなアドバイザーや補助機関(自治体職員)の役割です。

※4 筆者は人口の維持や増加は不可能とは考えていません。戦略的に進めていけば可能と捉えています。しかし、離島や半島など条件不利地と呼ばれる地域(自治体)では、人口の維持さえ不可能と考えます。

※5 シビックプライドの詳細は、次の文献を参照してください。読売広告社都市生活研究局・伊藤香織他(2008)『シビックプライド──都市のコミュニケーションをデザインする』宣伝会議

※6 詳細は次の文献を参照してください。牧瀬稔・読売広告社 ひとまちみらい研究センター(2019)『シティプロモーションとシビックプライド事業の実践』東京法令出版

※7 条例に「シビックプライド」という言葉は登場しませんが、住民の愛着や誇りを意識した条例に「「WE LOVE とよた」条例」(豊田市)、「土佐清水市みんなでまちづくり条例」(土佐清水市)があります。

※8 当初、相模原市条例は「さがみん」という公式のキャラクターをつける予定でした。また、「前文」があるならば「後文」(追伸)があってもよいだろうと、後文も用意していました。そのほか住民目線の、住民に近づく条例案を作成していました。しかし、その多くは「法制ルール」という観点から削除されています。個人的に思うことは、確かに法制ルールは必要と思いますが、そのルールが条例を住民から遠いものとしています。その結果、条例の実効性も低下しているような気がします。

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